T君は数学が、いや、数学だけが好きな高校2年生である。
彼は高校1年生の時に数検の準2級を取り、現在は2級を目指している。
週1回、塾に来て偏差値UP5を解いて帰る。
T君は学校の数学のずっと先を進んでいるので授業は復習にすぎない。
黙々と偏差値UP5を解き続けて、帰る。
楽と言えば楽な生徒なのだが、質問をひとつもせずに90分が過ぎるので、
こちらが手持ち無沙汰になる。
「T君、何かわからない所ないの?」
「大丈夫です。プリントに全部書いてあるので。」
「そ、そうか。」
何もせずに1万5千円を頂戴するのは、しかし心苦しいのである。
「T君、何かないの?」
「大丈夫です。」
数学が得意な生徒にとっては、UP5をひたすら解き続けられる時間が心地よいのだろう。
わかる、わかるけれど、何か教師らしいことをさせて欲しいとも思う。