ゆずり葉塾 塾長

24歳のナナさんが、ゆずり葉塾に週一回通うようになったのは、半年ほど前のことだった。

塾の卒業生のお母さんで、美容師をしている方がいる。

昔から押しが強く、たいへん世話好きな人である。

ナナさんはその美容院にお客さんとして来ていたのだった。

彼女は介護士をしていたが、一念発起して診療放射線技師の資格を取ろうと

専門学校に入学したものの、定期試験の数学で0点を取ってしまい途方に暮れ、

髪をカットされながら泣き出したそうだ。数学はからっきし駄目。

 

高い入学金を納めてしまったので、後戻りはできない。

でも、あんなに難しい「数学」は自分には到底出来っこない。

塾に通いたいけど、この歳になって今更恥ずかしくて通えない。

どうしたらいいのか分からないと涙をポロポロと流したのだ。

 

美容師である卒業生のお母さんは「ゆずり葉塾」を思い出し、

私に何とかならないだろうか?と相談してきた。

 

そのお母さんには生徒を何人も紹介してくれていることもあり、

まあ一度、塾に来てもらうようにと彼女に伝言をした。

 

数日後、ナナさんが尋ねて来た。とても真面目そうなお嬢さんだった。

 

しかし

数学はというと、5X+1/3Xの計算ができない。

学校の教科書を見せてもらうと分数関数・指数関数・対数関数・三角関数の基本から数の微積まで

ズラリと難しい数式が並んでいる。

 

聞けば、高校で数をやったがどうかも覚えていないという・・・

はどこの高校でもやったはずだよ。

でも、彼女は記憶にないらしい。

 

やれやれというのが本音だった。これは無理でしょ⁉

そもそもなぜ診療放射線学科に入学ができたの???と聞くと、

試験は選択制で彼女は国語単科で受験。その成績が良くて上位で入学。

 

?????コレって詐欺じゃないのかと思った。

入学させて、金をせしめればいいってもんじゃないよ!ホント驚く!

数学抜きで受験させておいて、数学の能力、しかも数までを求めるとは専門学校に憤りを感じた。

 

この彼女に数の解析までマスターさせるのは、

裏山で遊んでいる子どもにエベレストに登頂させるようなものだ。

無理難題を押し付けて、入学金と一学期分の授業料取って放り出そうとしているなんて、酷い話である。

 

美容師のお母さんの手前もあり、結局、面倒を見ることにした。

でも、次の試験はまで二カ月の猶予しかない。

最初の課題は数までの範囲である。

中学の数学もあやふやな彼女だが、

の二次関数・三角関数、数の三角関数・指数関数・

対数関数まで一本の道を作ることができれば、何とかなる。

 

英語の初心者が二カ月で英検1級を取れ。

と言われてもそれは不可能だが、数学の場合は単元を絞ってしまえば、

つまり近道を切り開いて行けば何とかなる!

 

私の頭にあったのは

「高校数学プロフェッショナルプリント偏差値UP5

だった。

 

UP5なら私が必要な部分だけを取り出し、

ブッシュに道を作り、川に橋を架け、

ダイレクトに山頂を目指す道を作り出せるかもしれない。

 

一般的な普通の数学問題集は問題を個別に切り貼りし、

構成していかなければならない。

 

言い換えると鉄骨やらコンクリートやらを使い、

自分で組み立てていかなければならないのだが、

UP5は道路としても橋としても完成されているので、

必要な部材をトレーラーで運べば済むイメージである。

 

そして、UP5は通塾回数の少なさを補える。

とても頼りになる「使える数学教材」だからである。

 

塾で先生がちょっとプッシュすれば、

生徒が一人でも十分取り組み進めて行かれる教材だ。

 

ナナさんは確かに真面目な性格だった。

「偏差値UP5」のプリントを毎回きちんとこなした。

 

ただ、不安だったのは

彼女がいったい自分が何をやっているのかを理解できないことだったが、

それも分からないでもない。

中学生にlogXやsinθが宇宙語なのと同じである。

彼女はただひたすら翻訳もできない宇宙語で喋る術を身につけようとしていた。

彼女は数学の素養は乏しかったけれど、計算力だけはあった。

符号ミスや単純な間違いが少なかった。

 

二か月の学習の後、定期試験を終えて、結果が出るのは夏休み明け。

その間も彼女は次の課題である数の微積に挑んでいた。

 

そして、

「先生!結果が出たんです!68点!専門学校の先生が驚いていました。

いったい何が起こったのか?って。0点だったのに奇跡だね!って」

 

彼女自身にもなぜそのような奇跡が起こったのか分からない。

って、ところが面白い。

 

おそらく数学の王道ではないだろう。

様々な課題を通して客観的に論証力を身につけるという数学本来の目的からは

外れていることは間違いない。多分、「ただ何となく解けた」だけなのである。

 

それにしても中学生以下の数学力しかない人間が

二カ月間で数の問題を曲がりなりにも半分以上解いたことは事実だ。

地図が無くても山頂に辿り着ける道をアップ5が可能にしてくれたのだ。

感謝である。

 

しかし、話はまだ現在も続いている。ナナさんの来年2月の試験範囲は数の微積全てなのだ。

これには私自身にも問題があって、数は塾でのニーズが皆無であったため、

お恥ずかしい話ではあるが、大学受験以来、つまりは40年以上勉強していないのである。

道を切り開くだの橋を架けるなどと大層なことは言えないのである(汗)

 

それに理系大学受験生のために数を予習するならまだしも、

高校数学の初歩も分からない彼女のために数を勉強し直すのも釈然としない所があった。

例えば2万円の受講費を頂くのに20時間の自分の時間を割くというのはどうなんだろうか?

 

しかし、セロ弾きのゴーシュではないが、その努力は後に生きるかもれないと思えた。

そこで手っ取り早くマスターしてしまおうと有名な数の赤い参考書を広げてみたものの

まあ、分かりづらいこと!

階段が急だし、手すりもないのだ。

 

そこで自分も「高校数学プロフェッショナルプリント偏差値UP5」に頼ることにした。

教師としてアップ5を使うことはあっても生徒として利用することは今までなかった。

 

やり始めると生徒たちが言っていたことが良く理解できた。

ストレスなくどんどん進むことができるのだ。

一時間で2枚、3枚と気持ちよく片付けられる。

 

各プリントは必ず復習から始まる。それは理解しているはずの事項確認だ。

 

そして、新しい内容に進むのだが、心憎いのは「準備1」「準備2」と、

新しいステップの段差を埋める配慮がなされている所だ。

 

言葉による説明ではなく、問題を通じて段差をなくそうとする工夫がある。

いわば説明即問題、問題即説明の形で理解を助けてくれるのである。

 

取り組んでいると受験生時代がふっと蘇って懐かしい気持ちになった。

第1章、2章、3章と進んで来たあたりであの赤い参考書を読み直してみた。

すると無造作に羅列されている問題の背景までくっきりと理解できるのである。

 

でも赤い参考書は冷たい感じである。洗練された装丁。気取ってお高い教師みたいだ。

偏差値UP5は温かい。寄り添ってくれる優しい教師が傍にいるようである。

この感覚は、自分が生徒の立場でこのUP5に接しなければ分からなかっただろう。

 

彼女は間もなく数の微積を終え、数に突入する。こちらの準備はほぼ出来つつある。

でも、大丈夫だろうか。

やっと対数やら三角関数の初歩的な計算ができるようになった彼女が、

そいつらを微分し積分し、なんて恐ろしい光景だ。

不安は尽きないが、来年の2月の定期試験を目指してUP5を頼りに頑張ります!